七人の敵

男、閾を跨げば七人の敵と数多なる素晴らしきものごとあり。 都会から山河海島まで、外出先での徒然を。

ハンター -The Hunter- 於 新宿ミラノ・シネマスクエアとうきゅう

主人公は傭兵、バイオ・テクノロジー企業の依頼で豪州・タスマニア島を訪れる。
目的は絶滅したとされるタスマニアタイガーの生き残りを見つけ出し、生体サンプルを採取するというもの。
ベースキャンプとなる人里離れた山小屋には幼い姉弟とその母が暮らす。
環境保護活動に熱心だった動物学者である父は数ヶ月前に森で消息を絶ち行方不明のまま。
発電機が壊れた山小屋は決して快適とは言えず、
行方不明の夫を思うあまり妻は薬漬けとなり床に伏して姿も見せない。
詮索好きな子供たちの視線を絶えず受けながら、選択の余地なくそこでの任務が始まる。

優秀なハンターでもある男は12日間を1サイクルに森や草原にトラップを仕掛けて回る生活を送る。
与えられた時間は二ヶ月、それ以上は企業が独占している目撃情報の隠匿が困難であることがその理由。
物語は彼の孤独なフィールドワークと逗留先の家族との交流の二本柱で進んでゆく。
そこに森林伐採業者と環境保護団体の対立などが織り交ざる。
非合法ハンターの素性を隠して研究者を装う男はエコロジストと疑われ、
森林伐採を生業とする地元の労働者たちから要らぬ敵愾心を抱かれ難儀することもしばしば。
やがて大企業の思惑や関わる人々の思いが複雑に交錯し、物語はサスペンスの様相を呈してい行く。


Hunter
(C)2011 Porchlight Films Pty Limited, Screen Australia, Screen NSW,
Tasmania Development and Resources and Nude Run Pty Limited.



広大なタスマニアの大地にあって、孤独な男の存在が際立って見える。
そこには自然賛歌や環境保護のスローガンなどは微塵もなく、
ただただ獲物を追う者のストイックな行動が坦々と描かれて行く。
彼は野生動物を見て目を細めたり、紅い夕陽を観て溜め息をつくことはしない。
そこに自然と対峙する人間と云う構図はなく、一己の生き物が自然の一部となって行動している。
そう云う様がシンプルに描かれていて、
情緒にうったえる甘美なものは極力排除されているのが却って清清しい。

それとは別に、一定期間を終えて山小屋の親子の所へ還って来た時の束の間の休息が、
傭兵と云う特殊な生き方を選択した男が嘗て味わったことのない安らぎを与えて行く。
この、家族との交流が物語の上であった方が良いのか否か、観ながらずっと考えていた。
もっとストイックな展開でも成り立つし、男の生き様が際立つのではないだろうかとも思ったから。
しかし終盤に向けての展開で、この家族との交流が大きな意味を持ち男のキャラクターを立たせることとなり、
大きな流れの中で説得力を持たせる脚本には巧いと認めざるを得ないものがあった。

とても安直で安っぽい表現を敢えて使えば、男とタスマニアタイガーがダブって見えるのである。
捜し求める獲物は果たして本当に存在するのか、生き残っているのか。
ただ一頭、絶滅する運命が待ち受ける中、日々を生きながらえているのだとしたら。
その大いなる終焉に向けて時を刻む幻の獣が、
峻厳な大自然の中で黙々と獣を追い求める側の男とダブルのである。

そうした緊張感の中で織り交ぜられる人間社会の矮小な争い諍い。
森を切り開いて生計を立てる労働者たちの切迫感は、決して彼等を悪者には仕立て上げ切れないし、
ウッドストック気取りのエコロジスト達の正義感は、何ともオメデタく間抜けに見えてしまうのが不思議でもある。

地球に優しいと云う滑稽な言葉が使われるようになって久しい。
そう云うレトリックにどっぷりと浸かった現代の環境保護意識にあって、
男がクライマックスで取った行動はある意味過激だが、
自分のような捻くれ者としては共感出来るものがあったし、カタルシスさえ感じるのであった。
道理とか正義とか、そう云うものでは説明出来ないものも、この世界には沢山あるのだから。


  1. 2012/02/06(月) 12:42:53|
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