七人の敵

男、閾を跨げば七人の敵と数多なる素晴らしきものごとあり。 都会から山河海島まで、外出先でのよしなしごとを。

フィツカラルド -Fitzcarraldo- 於 早稲田松竹 (※最終推敲時刻 2012/03/19 16:45)

名画座の良いところはその字の如くであろう。
時を越えて過去の作品を大画面で鑑賞出来る貴重な空間だ。

「フィルカラルド」 が封切られた当時は高校生だった。
あの船が山を登る印象的なシーンは憶えているが、良速少年はそれを観てみたいとは思わなかった。
高校生当時の自分にとって映画は高価な娯楽であり、そうそう行かれるものではなかったし。

この週末、観たい映画のリストを開けてみたがどれもピンと来ない。 しかし気分は映画館なのであった。
そこで都内の名画座のHPを巡っていると灯台下暗しで、最寄りの早稲田松竹でこれが掛かっていたのだった。

あのシュールな船の山登りの映像から予想していたのはもっと難解なストーリーであったが、
三十年近い時を経て実際に観るとそんなことはなく、実にシンプルなプロットによる物語であった。

そして寡聞にして知らなかったが本作のヘルツォーク監督は、
あのキンスキーとアジャーニによる 「ノスフェラトゥ」 と同じであることを今回初めて知った。

19世紀末の南米。密林の僻地にオペラハウス建設を夢見るフィッツジェラルド(フィツカラルド)は、
資金繰りのために無尽蔵のゴムの木を有するアマゾン河上流の未開地へ買い上げた古い客船で遡行を試みる。
しかし圧倒的な自然の前にやがて行く手を阻まれ進退窮まり、
ひとつ山を越えたところを流れるもう一本の川筋へ船を移すべく密林を切り拓いての陸路 船の山越えを企てる。
人海戦術を要するこの企ての力となったのは、旅の途中で遭遇し、
付かず離れずつき纏って来た首狩族と恐れられる原住民たちだった。


fitz
著作権不詳


密林の中を流れる川を遡上する筋書きには誰しも「地獄の黙示録」 を思い起こすことだろう。
船の屋根上に上がって蓄音機でオペラを流すシーンなどは黙示録のワーグナーとダブる。
しかしそこにカーツやウィラードを通して描かれた狂気のようなものはない。
あるのは絶対的未開の地を切り拓き、そこにオペラハウスを建て文化の息吹を自らの手でもたらそうとする男の野心。
それは狂気と云うより盲目的ともとれる欧州文化圏への偏愛、礼賛、憧憬と云ったものが蓄積した得も云われぬ渇望、
飢餓感なのではと思いながら観ていた。
密林に流れるオペラの旋律は、狂気と云うよりは耽美に近いものであったし。

1982年(日本公開1983年7月)作品、CGではなく実際に巨大な船が山を登っていくシーンは圧倒的であり、
それだけを切り取るとやはりフィツカラルドの狂気の沙汰にも見えるのだが、
それまでの道程を踏まえてそこに辿り着くと、何故か必然性すら感じてしまうのだった。
終盤に向けての展開もシュールに破綻することはなく、なかなかいいじゃないかとニヤリとさせるもの。
そして大自然に翻弄される大きな船や、未開の地の民との儘ならない対話を見ていると、
何かにつけ今の日本に停滞しているコントロール不能な様々な事象がダブって見えてしまうのは仕方のないことなのか。
そこに色々と通ずるものを散見しながら、
今この映画を掛けるタイムリーな感覚に早稲田松竹のセンスを見た思いだった。

とは云え、実は上映時間の1/4くらいはウトウトしていたのだった。
観に行く前に馬場は長崎飯店のちゃんぽんを食べて腹がこなれて来た時分になり、マッタリとしてしまった。
過去、映画館でこんなに夢現になったのは、
タルコフスキーの「ノスタルジア」、或いはレジオの「コヤニスカッティ」くらいだ。
機会があればいずれ頭の冴えている時にもう一度観たいものだが、
あのウトウトしている狭間で目に飛び込んでくるアマゾンの風景がもたらしたものは、
冴えた頭では味わえないのかも知れない。
 
 
  1. 2012/03/19(月) 12:16:42|
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