七人の敵

男、閾を跨げば七人の敵と数多なる素晴らしきものごとあり。 都会から山河海島まで、外出先での徒然を。

さあ帰ろう、ペダルをこいで - Svetat e golyam i spasenie debne otvsyakade - 於 シネマート新宿 スクリーン2

 ( ※ 作品の結末に係る表記があります )

物語は過去 (1983年まで) と現在 (2007年) を柱に描かれている。
過去では共産政権下で息苦しくも楽しかった一家団欒から、亡命を経て辛い思いをした難民収容所時代を描き、
現在では記憶を失った青年と彼の祖父との25年ぶりの再会と交流の旅を描く。

25年前にドイツへ亡命した娘夫婦とその一人息子(孫)が政変後のブルガリアへの帰国途中に交通事故に遭う。
娘夫婦は亡くなり、孫は記憶喪失となり入院の身であるとの報せが男(祖父)のもとに届く。

7歳で別れた孫は青年となったが、失われた記憶に再会の喜びはない。
祖父は共産政権下では民兵に目を付けられるほど毅然とした生き方をして来た。
町一番のバックギャモンの名手であり、そこに人生をも準えて語る。
「勝利は時の運だがダイスを振るのは自分の才覚である」 と。

病室で心を閉ざす青年のもとを辛抱強く訪ねる祖父。
昔話をしたり、子供の頃そうしたようにバックギャモンをやったり、少しずつ青年の心の扉を開いて行く。
調べて行くと孫の生活は友人も恋人もなく孤独であった。
祖父は思う、この子には記憶の再生とアイデンティティの獲得が必要だと。

旅に出て世界を見ること。 祖父は孫を病院から出し、ブルガリアへの帰還の旅にいざなう。
手段は飛行機でも鉄道でもなく、タンデムの自転車だ。
広大な風景の中に身を置き、人々との出会いを通してやがて青年の瞳に光が宿りはじめる。
きつい峠道を越え、満天の星空の下で眠り、偶然出遭った旅の女性と互いに惹かれ合う。

そして訪れたのは亡命直後に収容されたイタリアの難民収容所。
子供の頃可愛がってくれた難民仲間の男は閉鎖された施設の門番としてまだそこに居た。
懐かしい顔、辛くて希望の見えなかった日々、思いがけず見つけた少年時代のミニカーの隠し場所・・・
様々な記憶の断片が繋がり、遂に青年は記憶を取り戻す。
それを見届けた祖父は先にブルガリアへ帰り、
青年はひとり自転車での帰還の旅を続け自らのアイデンティティの獲得に至る。


240619
(C) RFF INTERNATIONAL, PALLAS FILM, INFORG STUDIO, VERTIGO
/ EMOTIONFILM and DAKAR, 2008 All rights Reserved


もっとのんびりしたロードムービーを期待して観に行ったが、
まだ冷戦の時代を背景に離れ離れになった一家の邂逅をテーマに、重みも感じる内容であった。
祖父からすれば25年ぶりに会える筈だった娘との再会は叶わず、
孫の成長の時間も決して幸せに満ちたものではなかったことへの悔恨と悲嘆は想像に難くない。
しかし祖父は強い男であり、頼りな気な孫を一人前の男にすることで人生の肯定を見出そうと試みる。
その手段として自らの人生の傍らにいつもあったバックギャモンであり、共にこぐタンデム自転車なのだ。

もう少し旅気分を満喫したかったが、観てからの時間が経つにつれ様々なシーンが思い出される。
それは自転車で走り過ぎた美しい情景のシーンではなく、
旧体制下のブルガリアの食堂であったり、イタリアの難民収容所の小さな庭であったり。
距離を移動する旅のシーンより青年の過ごした時間の旅、記憶の断片の方が印象に残っている。
このロードムービーに織り込まれていたのは距離でなく時間の方だったのだなと、今になって思うのである。
 
 
  1. 2012/06/19(火) 13:33:12|
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